Apr 17, 2023

E-Story インタビュー 第3回 ユタカ・タケウチさん(前編)

E-Story インタビュー 第3回 ユタカ・タケウチさん(前編)

「カリフォルニアで働く起業家にインタビュー」シリーズ第三弾は、ハリウッドで俳優として20年以上に渡りご活躍されている、ユタカ・タケウチさんに、貴重なお時間を割いていただき、お話しをお伺いすることができました。ユタカさんからのお話を2回に分けてお届けいたします。

目次

まずはじめに自己紹介をお願いします。

岐阜県多治見市出身、ロサンゼルスをベースに活動している、俳優のユタカ・タケウチです。舞台も何度か出演したことはありますが、基本的には映画、テレビシリーズ、それからコマーシャルの分野で主にやってきています。あと、時々ボイスオーバー(声の仕事)もしています。 

人生の大半を野球に捧げた父のもと、僕自身は高校まで続けました。大学入学後間もなくして野球をやめ、それからは特に目的もなく毎日遊び呆けていました(笑)

二十歳の夏休み、母の勧めでカナダのバンクーバーにすむ母方の叔父さん家族のところへ約二週間遊びに行きました。その時面倒を見てくれた方々は、その叔父さんの息子さん夫婦。普通に日本語が通じると思って行ったんですが、会ってびっくり。彼らは日系カナダ人で、母国語は完全に英語でした。意思疎通がかなり困難だった事を覚えています。英語がわからずかなり恥ずかしい思いをしたこともありました。それでも旅の終わりには、最高に楽しかった思い出しか残らず、結局これがきっかけで海外への強い憧れが生まれました。

大学卒業後、カナダへワーキングホリデーで戻る。そう決めて就職活動もしないまま卒業を迎えたのですが、気づいたらその年のワーキングホリデー受付期間はすでに終了していました。

それでもそのために就職活動もせずお金を貯めていたので、海外に行くことが諦めきれず、卒業後約二ヶ月半、イギリス、ロンドンへ語学留学に行きました。

ただ、結局帰国後も海外への思い・熱は冷めず、地元のクラブでバーテンダーのアルバイトをしつつ、また海外へ行くきっかけのようなものを日々探していました。クラブで働いているのはかなり楽しかったので、基本的には毎日、毎晩、遊びまくっていましたけど(笑)

大学卒業後に、語学留学先をイギリスに決めた理由は何でしょうか。

「ブレイブハート」という映画を観て、メル・ギブソンが演じていた主人公が実在の人物であることを知りました。さらにそれをモチーフにした石像がスコットランドのエジンバラキャッスルに置いてあることも。確か「地球の歩き方」に書いてあったんじゃないかな。そしてなぜかそれにどうしても触れてみたくなったんです。それに触ったら、何か特別な天のメッセージのようなものが聞こえてくるんじゃないか。そんなことを真面目に考えてしまいました(笑) 

イギリスへ行き、二ヶ月間語学学校に通った後、残りの二週間でレールパスを使って電車の旅をしました。そしてスコットランドのエジンバラキャッスルへ。求めていた石像はちゃんと入り口のそばにありました。ところが、そばまで行ってみると、なんと実は全く手の届かない場所にあり、一切触れることができないままその場を去ることになりました(笑)この時のことははっきり覚えているのですが、旅程そのものがとても楽しかったので、実際目的が達成できなかったこと自体は僕の中でそれほど大したことではありませんでした。

ジョセフ・キャンベルという比較神話学の第一人者をご存知でしょうか?もうすでに亡くなった方なんですが、彼は世界中の神話を比較し、ある一つの共通したものを見出しました。「Hero's Journey」という、話の流れみたいなものです。これは世界中のストーリーテラーたちに大きな影響を与えた実績です。その方がある本で書いていたことですが、自分の中にある神話を完成させるため、今そこに欠けているものを感じたり見たりした時に、人はそこを埋める作業をする。

その例えとして、一つの話があります。ある男性が車を運転しているんです。奥さんと子供を乗せて。すると運転中、崖から落ちそうになっている人を見つけた。助けに行けば自分も危ない。でもその人は妻と子供を車に残したままその人を助けに行く。自分の中にある神話を完成させるために。

今思えば僕があの時行動に移したのは、そういう自分の中にある神話を完成させるためだったのかもしれませんね。結果としては触れなかったので、一体どんな神話だったかはわからず終いですが(笑)

俳優という職業に注目したきっかけをを教えて頂けますか。

まだクラブでバーテンダーをしていた頃の事です。ある晩いつものように働いていると、お店にあったテレビである授賞式の模様が放映されていました。この部分に対しての確信はないのですが、多分、MTV AwardでBest Kisser賞を受賞したWill Smith(インディペンデント・デイの作品から)が受賞スピーチをしている場面だったと思います。

その時の彼のスピーチを見た時、純粋に「楽しそう」と思い、ハリウッドで俳優になることを決めました。

下の写真は、Will Smithさんと一緒のユタカさん

ハリウッド俳優になるための準備はどのようなことをされましたか。発音がとても綺麗ですが、どのように英語を勉強されましたか。

日本での演技経験が一切なかったので、全て手探りで始めました。

まずは自分に問いました。日本にいる間にできることは何か。答えは、英語の勉強とお金を貯めること。間も無くして運よくこの二点に集中できる仕事を見つけました。地元で複数の会社を経営する社長の運転手。働きながら参考書やCDを使って勉強し、お金を貯めました。そして二十六歳の五月、念願の渡米。今でも覚えていますが、まず最初に何が衝撃だったかって、あれだけ勉強していたのに英語が全く聞き取れないし、話せない、という現実でした。

語学学校に通いつつ、図書館へ行って勉強、家では映画に英語字幕をつけて観る。とにかく英語漬けの毎日を過ごしました。一年ぐらいですが日本語を一切話さないルールで生活もしてみました。英語を話す筋肉を鍛えたかったので。発音には特に力を入れましたね。目指しているのが俳優だったので。あと辞書を見て単語の発音がわかるよう、発音記号の勉強もしました。

一、二年してESLのレベル5(そこの学校では一番上のレベル)の生活に慣れてきた頃、まだちょっと自信はなかったのですが、なんとなくぬるま湯に浸かっている感じになっていたので、思い切ってネイティブもいるアクティングのクラスを取り始めました。当然ですが英語のセリフを覚えてクラスについて行くのがやっとの状態でした。そして数ヶ月して、早速最初のオーディションを受けました。

壁にぶつかったときは、諦めるか越えるかどちらかしかない

英語の壁やその他の壁にぶつかった時の対処法をを教えて頂けますか。

壁にぶつかったときですか?そういう時は諦めるか越えるかのどちらかしかないと思っています。

例えば英語で壁にぶつかったら、もう英語を勉強するしかない。そうやって壁を越えるしかない。嫌ならやめろ。常にそう考えています。でもそれは努力とか頑張っている感覚というよりは、生きるためには、それしか選択肢がないという感じです。人からよく頑張っているね、と言われるんですが、正直そういう実感はあまりないです。

二十六歳でアメリカに来た僕は、ネイティブの英語発音を習得することに関してはそれほど努力していません。頑張れば可能なことかもしれませんが、多分ネイティブスピーカーを演じることにそれほど興味がないためか、現在その部分にあまり労力を費やしていませんね。ただし、外国人アクセントに慣れていないネイティブの人が聞いて理解できる英語でセリフを喋ることは必須だと思っているので、これに関しては今後も向上させていくつもりです。

TVドラマ "The Defenders

ネイティブが聞いてもきちんと理解できる英語を身につける

ハリウッドで俳優を目指す際の注意点をを教えて頂けますか。

まずは英語。これはさっきも言いましたが、アクセントのない英語を話すという意味ではなく、アクセントのある英語に慣れていないネイティブが聞いてもきちんと理解できる英語を身につけるということです。これが結構大変で、僕自身もいまだに苦労しています。

もう一つは、師事する演技の指導者をちゃんと選ぶということ。ハリウッドには星の数ほどアクティングコーチや先生がいます。中には信じられないような演技の仕方を教えている人もいるので、その辺はきちんとリサーチをして、信頼できる先生、またはコーチを見つけることはとても重要だと思います。

日本人としてハリウッドで俳優を続けていくことで困ったことはありましたか。

一番大きなハードルはビザでしたね。グリーンカードを取得してからは、ビザ問題はクリアできましたが、一難去ってまた一難。別にグリーンカードが仕事を持ってきてくれるわけではないので、次のステージへ進めば進んだなりの新しい困難、問題は今現在に至るまでずっと続いている気がします。

ハリウッドの俳優組合について教えて頂けますか。入るのは大変なのでは?

僕は2000年に渡米して、2004年にSAG-AFTRAのメンバーになりました。

現在はユニオンが認可した仕事しかしていません。1993年にできたこの俳優の労働組合は俳優をいろいろな角度から守ってくれます。例えば、労働時間や残業手当、週末働いた場合のギャラの補償など、とにかく細かい決まりがあります。また、印税で例えると、切手代よりも金額の低いペイであったとしてもちゃんと小切手が郵送で送られてきます。

僕の場合は、一番最初の仕事が幸運にもユニオンの仕事で、プリンシパル(セリフのある役)だったため、すぐにユニオンに入る権利がもらえました。それ以外だと、ユニオンの映画やテレビなどのエキストラをやり、ユニオンバウチャーと呼ばれるものを三枚ゲットすることで権利が得られます。

僕は最初の仕事の後、出演クレジットが増やしたかったので、すぐにユニオンに入りませんでした。一旦入ると、ノンユニオンと呼ばれるユニオンが認可していないプロジェクトの仕事が一切できなくなるからです。例えばギャラの出ないプロジェクトや学生映画などです。その後、フランスの自動車メーカー「ルノー」の全世界向けF1コマーシャルに出演。これもユニオンの仕事でしたが、この撮影後もまだ入りませんでした。それから間も無くして今度はインディペンデントのユニオン映画に出演しました。

その撮影後、ついにユニオンから「You must Join」という手紙が届きました。書かれていた内容はあまりはっきりと覚えていないんですが、確かそのタイミングで入らないとこの先ずっと入れなくなる、みたいな事が書いてあったと思います。それで決心してユニオンに入りました。入りたくても入れない俳優もたくさんいると聞くので、僕の場合はかなりラッキーで珍しいケースだったかもしれません。

俳優がエージェントやマネージャーを雇う

SAGの年会費はあるのですか。また他にもユニオンはあるのですか。

はい、年会費は前年度の収入に対して変動します。他のユニオンに関しては、監督、ライター、プロデューサーを始め、編集のユニオンやヘア・メーキャップのユニオンなどもあります。

 俳優のユニオンはメンバーの労働環境などは守ってくれますが、仕事そのものを持ってきてくれるわけではありません。したがって仕事は自分で探します。またはエージェントやマネージャーから入ったオーディションを受けるなどしてゲットします。

日本で仕事をしたことがないのではっきりしたことは言えませんが、人伝えで聞く限り、日本では俳優が事務所に雇われている形なのに対して、こちらは俳優がエージェント、マネージャーを雇う。彼ら彼女らが持ってきたオーディションに受かって初めてそのギャラの10%ー15%を彼らに支払うという仕組みです。

映画 "USS Indianapolis:Men of Courage" 右側はニコラス・ケイジさん

初めての仕事はどのように獲得されましたか。

先ほど話に出た、演技クラスを受け初めて最初に受けたオーディションです。みなさんご存知だと思いますが、トム・クルーズ主演の「ラスト・サムライ」だったんです。本来ならエージェントかマネージャがいて、彼ら、彼女らが応募してくれることでオーディションが受けられるのですが、そんなルールを知らなかった僕は、人伝いでオーディションの噂を耳にした後、まずは郵送で写真と連絡先を送りました。

当然ながら出演クレジットはまだひとつもなかったのでレジュメと呼ばれる履歴書はつけなかったと思います。「オーディションが受けたいです」ということだけを書いて送りました。しかしなんの返事もありませんでした。今ならそれは当たり前として終わるのですが、当時の僕は「メールが届かなかったのかな」と考え、今度はサンタモニカにあるキャスティングのオフィスへ直接届けに行き、オフィスの郵便ポストに投函。しかしそれでも何も連絡がなかったので、ついに直接自分で電話をかけました。するとその翌週にオーディションを受けさせてくれたんです。

そしてその結果、トム・クルーズの目前で、真田広之さんに首を切られるRude Man(無礼者)役をゲットしました。

最初のお仕事の際にはエージェントがいなかったのですね。

はい。本来ならエージェントを介して仕事を得るのが王道です。でもその仕組みを知らなかった僕は、それとは全く違う方法で最初の仕事を頂いたわけです。知らないってある意味で強いことだと思いますよ(笑)

本来の方法に関してですが、僕が知っているシステムが変わっていなければ、基本的には、エージェントの元に平日の朝「ブレイクダウン」と呼ばれるファイルが届く。そこには、キャストを探している新しいプロジェクトの情報があり、こういうアクターを探しています、というような内容が記載されている。それをエージェントやマネージャーが見て、自分たちが抱える俳優に合う役があると、その俳優の写真とレジュメ、またはデモリールなどをそのプロジェクトを担当しているキャスティングディレクターに送る。そのうえでキャスティング側から、この俳優のオーディションテープを送ってくれ、などのリクエストがくる。そうして僕ら俳優はオーディションに参加できる。

その他にも「LAキャスティング」や「アクターズアクセス」などのサイトがインターネット上にあり、俳優自らがアカウントを作り、年会費を払い、コマーシャルや学生映画、インディペンデントプロジェクトなど、自分にあてはまる役が見つかると、自分で応募できるんです。時々大きなプロジェクトの募集情報が出ることもあるんですが、みなさんが普段テレビや映画館で見るような作品は、そこにはあまり出てきませんね。そういう作品に関しては先ほど言ったブレイクダウンでの募集がメインだと思います。

Be careful what you wish for, it might just come true.

自分が本当に欲するものには気を付けて、それは現実化するかもしれない。

初めてのお仕事である「ラスト・サムライ」の撮影はいかがでしたか。

ワーナーブラザーズスタジオの中に作られた「Tokyo Street」と呼ばれるセットで撮影しました。前日に数時間リハーサルがあって、その翌日に本番。撮影そのものは1日でした。「be careful what you wish for, it might just come true 」という言葉があるじゃないですか。「自分が本当に欲するものには気を付けなさい。なぜならそれは現実化するかもしれないから」という。

自分がそうなりたいと強く思って日本を飛び出して約二年半後、いきなりその思いが現実化しました。今思うと、自分の力でその場へ出たというよりは、目に見えない力に「ぽんっ」て押し出された感じでしたね。当然、準備の仕方や撮影現場でどう振舞って良いのかなどは一切分かりませんでしたから。

その時エキストラが120人ぐらいいたのかな。それで、真田広之さんがいて、トム・クルーズがいて。まさにハリウッド大作の撮影現場でした、予算は120億円ぐらいだったと思います。しかも、当時スタジオ内にプロダクションカンパニーを持っていた、スティーブン・スピルバーグもたまたま見学に来ていたんです。監督はエドワード・ズウィック、DP(カメラマン)はジョン・トール。二人ともアカデミー賞の受賞者です。僕はその真ん中にいきなり出されました。とにかく現実離れした現場でしたね。

撮影が終わってから映画が公開されるまでの1年間は生きた心地がしなかったですね。自分が無知で未経験で、何も分からないまま現場に入り仕事をした。そしてそれが世界中に出る。ということはもしかしたら世界中に自分の恥を晒すことになるのではないか。そう考えたわけです。今の自分に何ができるか、とすぐに自問自答しました。できることはひとつ。一年後、この映画が公開されるまでに今よりも良い俳優になっていること。そうすればきっと映画が冷静に観れる。だからその一年はとにかく少しでも良い俳優になる努力をしました。

そんな気持ちで待った映画の公開日。こっそり一人で映画館へ足を運んで観ました。すると映画の本編に自分は出ていませんでした。なんと本編からシーンがカットされていたんです。ほっとしたというか、残念だったというか。少し複雑な気分になりました。

ただその替わりに、DVDのスペシャルフューチャー「削除されたシーン」という特典付録として残りました。そこでは、どうやって首を切る場面を撮影したかなどの説明も加えて紹介されていました。変な話ですが、もし本編に残っていたら十数秒で終わっていたシーンですが、それが長々と特別扱いされていたので、ある意味不幸中の幸いだと思いました(笑)

映画 “The Last Samurai” 右側の男性がユタカさん

出演シーンがカットされることはよくあるのですか。

コマーシャルでは結構頻繁にあります。昨年末にある大手映画スタジオの全米ナショナルコマーシャルで働いたのですが、テレビなどで実際に放映されたものを見た際、僕の姿は残っていませんでした。「あ、まただ」と思いましたね。もうある程度は慣れっこになっていますが、コマーシャルでカットされて痛いのは、印税が一切入らなくなることです。撮影した分のギャラは入ってくるのですが、コマーシャルのファイナルカットに残っていないと、放映された分に比例して入ってくる印税が「0」になります。特に全米ナショナルコマーシャルだと、1万ドル(約130万円)、2万ドル、または流れる期間と頻度によってはそれ以上にも相当するであろう印税が、全くのゼロになる。正直かなりショックです。

2014年ぐらいに、CanonとNissan、それからHyatt Regency Hotel、この3本の全米ナショナルコマーシャルで働きました。当時はまだ、コマーシャルが流れないまま終わるとか、自分がカットされると印税が入らないとか、そういった知識がなかったため、三本流れたら場合これくらいの印税が入る、と単純に「取らぬ狸の皮算用」をしてしまいました。多ければ900万、少なく見積もっても300万、と。それであまり気にせずお金を使っていたら、そのうちの一本は完成せず終い、別の一本からはカット、残りの一本では、頭は写っているけれど顔が写っていないから本人と認識できない、という結末。つまりこの時も印税がゼロになりました。あれはすごくいい勉強になりましたよ。かなり痛かったですが(笑)

ハリウッドは、ものすごく自分次第っていう、実力主義の印象を受けます。

こちらでは基本、皆平等にオーディションを受け、その上で役を得る。そういう意味では確かに実力主義かもしれません。ちなみに人によってはパーティなどに参加して、そこで知り合った人と仕事をするというケースもあるみたいですが、僕の場合はそういう形で仕事に繋がった経験が一度もありません。だからそういう目的でパーティなどへ参加することはもうほぼなくなりました。多分、向き不向きがあって、単純に僕はそういうタイプではないんだと思います。

そのかわり、オーディションを通して仕事を頂き、働いたあとにまた同じ監督などから声をかけてもらうという経験は結構あります。例えば、2008年ごろだったと思いますが、IBMの全米ナショナルコマーシャルで、ジョー・ピティカという監督と仕事をしました。コマーシャル業界では知らない人がいない、伝説的なコマーシャル監督です。その方が僕を気に入ってくれて、それ以後十本以上のコマーシャルにキャストしてくれました。

いつオーディションが入るのかわからないのですか。

わかりません。オーディションの連絡は、ある日突然入ります。そして早ければ翌日にキャスティングオフィスへオーディションを受けに行くケースもあります。そういう時は準備するといっても台詞を覚えるだけで精一杯だったりします。

しかし最近は、特にパンデミック以降はテープオーディションというシステムが増え、大きく変わりました。これは直接キャスティングディレクターのオフィスへ行ってオーディションを受けるのではなく、自分でパフォーマンスをテープに撮ってメールで送るんです。この場合、今までよりオーディションの情報をもらってから、テープを送るまでの時間に少し余裕が出てきます。つまり準備時間が以前より長く取れる。セリフを覚え、それ以外の準備もできるし、その上で演技のコーチングまで受けられる場合もある。これは本当に有難いです。

とはいえ、オーディションが突然入ることは変わっていないので、体調管理にはなるべく気を配っています。例えば毎日同じ朝食にすることでできる限り普段通りの体調を維持する、とかです。ちなみに朝食に関してはもう五年ぐらい同じものを食べてます。

Luck happens when preparation meets opportunity.

準備が全て!

オーディションを受けて、どのぐらいの確率で通るものなのですか。

確率は分からないです。それは役柄によっても人種によってもいろいろ変わると思うので。でも例えばコマーシャルであれば、ブレイクダウンでこういう人を探しています、という一つの役の募集に対して数百から四桁(1000通以上)の応募があると聞きます。その中から一次オーディションに呼ばれる人が数百人、ニ次オーディションに数十人、そして最終的に一人が選ばれる。競争率はかなり凄いと思います。

昔、Six Flags Magic Mountainのコマーシャルをやったことがあるんですが、その時は世界中にいる日本人を対象にして探したそうです。応募数は2000人-3000人だったと聞きました。その中から選ばれたわけですからとても光栄でした。

最近はテープオーディションになったため、より世界中からの応募が増えていると思います。そうなってくると、当然競争率は上がり、もしかすると今まで以上に運や縁みたいなものも大きく影響してくるのかもしれませんね。

でも結局のところ、相手がどういう人を探していて、どういうものを良いと思うのかは考えてもわかりません。身長が高いとか低いとか、目が大きいとか小さいとか。受かる理由も落ちる理由も全くわかりません。だから自分にできること、やるべきことはできる限りの準備をし、できる限り最高のパフォーマンスを見せることしかないと思っています。

 "Luck happens when preparation meets opportunity.”と言いますよね。準備のできている人のところに機会が訪れた際、幸運は起こる。準備しているからといって、必ずしもそういったタイミングに出会えるかどうかはわかりませんが、自分にできることはそれしかないですよね。あくまで自論ですが。

仕事を通して人に勇気ややる気が与えられる

俳優業の魅力はなんでしょうか。

魅力ですか?たくさんありますが、最近ちょうど考えていたのは、長期で海外などに行ける可能性が高いということですかね。これ、僕にとっては物凄い魅力なんです。去年の初め、撮影でバンクーバー行ったのですが、ちょうど三週間ぐらいいたのかな。それぐらい滞在できると、ローカルの人たちが行くところを訪問したり、なんか旅行で行くよりはその場所のことをより深く知れた気になれるんです、僕の場合(笑)

それ以外だと、例えば自分の仕事を通して人に勇気ややる気が与えられるのも魅力ですね。舞台ではないのでそれを直に感じられる機会は少ないですが、それでもそういう機会に恵まれた時は、凄く幸せな気分になります。

主役を演じた映画 "Drive All Night

現在、お仕事では、メインキャラクターや主役を演じていますね。

「Drive All Night」というインディペンデントの長編映画で初めて主人公を演じました。この時は脚本家兼監督の方からオファーを頂いたんです。ある日僕のマネージャーのところに脚本が送られてきて、それを読んで欲しい、と。なかなか不思議な脚本で、正直一、二度読んでもきちんと理解できませんでした。でも逆にそれでより興味が湧いて仕事を承諾しました(笑)今後も、どうしてもやりたい役のためであれば喜んでオーディションを受けますが、希望としてはオファーで頂ける仕事をもっと増やしたいです。

 この作品以前にも、公式な主人公ではないにしても、メインの役を演じた経験はあります。例えば、2012年「East Side Sushi」という長編映画。この作品での主人公はメキシコ人女性でしたが、僕はメインの男性寿司シェフを演じました。また、AFI(American Film Institute)の学生が卒業製作で作った「Takeo」とう短編においては、主人公は白人のアメリカ人女性でしたが、僕はタイトルキャラクターであるTakeoを演じました。

 ちなみに「East Side Sushi」に関してですが、この作品がSan Joseで行われたプレミア上映の時、人生初のスタンディングオベーションを体験しました。最高でしたね。そしてそれ以降アメリカ各地の映画祭でオーディエンスアワードなどを多数頂き、さらに在日米国大使館の主催で日本での上映も行われました。その際、監督も招待され、全国五ヶ所で上映されたのかな。僕は東京、名古屋、京都での上映に参加しました。とにかく暖かい心が沢山詰まった素敵な映画です。

ユタカさんがメインキャラクターのひとりを演じる "East Side Sushi"

「True Blood」にも出演されていましたね。

はい。HBOのシリーズで、お金がたくさんあるプロジェクトだなぁ、という印象でした(笑)ファイナルシーズンという理由もあったと思いますが、とても穏やかなというか、とにかく慌ただしくない撮影現場だった記憶が残っています。

ほとんどの人が挫折していく中、ハリウッドで俳優として長い間継続されていることが凄いです。

いろんな方の助けがあっての上です。その辺は本当に運がいいと思います。家族や友達、そしてアメリカに来てから出会ってきた人々。現在僕が師事しているアクティングコーチもその一人。本当にお世話になっています。

人を元気付けることで自分が元気付けられる

僕も時々「疲れた」とか、朝「起きたくない」っていう日があります。でもやるしかないっていうか、誰かにやらされているわけでもないし、自分で選んでやっていること。嫌ならやめれば良い。そう考えると、結局やるしかない。

以前はインターネット上や自分の周りにモチベーションを与えてくれるものを探していましたが、最近は変わりました。人にモチベーションを与えられるチャンスを探すようになりました。

人にモチベーションを与える。その相手の姿や反応を見て、それが自分にとってのモチベーションになる。自分にそれが凄くプラスになることを知りました。人を元気づけることで自分が元気になる。僕にとっては結構ポジティブで大きな発見でした。

とは言え、人から元気を与えてもらえるのもやはり有難いです。最近で言うと、WBCでは侍ジャパンにめっちゃ元気をもらいました。超元気をもらいましたね。最高でした。

今回のインタビューはここまでです。

ユタカさんのプライベートやハリウッド事情については後編でお届けさせていただきます。

お楽しみにしていてください!


ユタカさんの地元である岐阜県多治見市は、やきもの文化のまちとして、美濃焼とともに発展してきました。ユタカさんは、そんな多治見市の観光大使をされています。

多治見市は、歴史ある窯元や古い町並、荘厳で風格のある古刹や修道院、自然の中に静かに佇む名所・名跡など多くの見どころがたくさんあります。

また、四季折々、様々なイベントが開催されます。ぜひ、多治見市に足を運んでみてください!

たじみ陶器まつり(4月&10月)
http://www.gifukankou.com/event/tajimichawanmatsuri.html

日本3大陶器祭りのひとつである「土岐美濃焼まつり」5月3-5日
https://www.city.toki.lg.jp/kanko/kanko/1004839/1006738.html


ユタカさんのインタビュー後半はこちらからお楽しみいただけます。


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